マネジメント

人間力の正体「鬼と金棒」と「非認知能力」

一体、「人間力」って何なんだ?

「人間力」が重要なのものだというはわかるが、これは概念が広過ぎて正確には理解が難しい。
「感性」や「コミュニケーション能力」というのは人間力の要素ではあると思うが、あくまでも一部でしかない。

以前の記事『ゴールデンサークル理論から学ぶ 〜リーダーシップと巻き込み力〜』では、リーダーの巻き込み力について書いたが、人間力はスキルの問題ではない。

もしかしたら、「人間力」は「重力」のようなものなのかもしれない。
何かわからないし、目に見えないけど、たしかにそういうものがあって、人を惹きつける力。
「魅力」は、スキルや装いや短期的な努力で身につくかもしれないけど、そういうものとは違って、もっと深く、長い時間をかけて形成された、その人の内面から出てくるもの、それが人間の重力なのかなと思います。


1.鬼と金棒

そんなことを考えていた時、私が尊敬しているある経営者の方に、ネッツトヨタ南国の横田相談役「人間力に関する鬼と金棒のお話」を教えていただきました。

まず、人間力の定義について。

人間力 = 人間性発揮能力
人間性 = 人間が本来持っている能力
(感じる・気付く・考える・発言する・行動する・反省する・笑う・共感する・尊敬する・感動する・感謝する・誰かの役に立ちたい・自己の成長を実感したい・夢目的を持つ)

このように捉えられるとのこと。

人間性は誰でも持っていて、人間力というのはその人間性を発揮する能力なのだと。
つまり人間力が低いのは発揮する能力が低いだけであって、人間性が低いことではないと。
すごく共感。この考え方好きです。

そして、鬼と金棒の話。
鬼は人間力の大きさを表し、金棒は知識やスキルやノウハウを表している。

「鬼」= 人間性発揮能力
人格、感性、素直さ、謙虚さ、精神力、EQ、思いやる力、気付く力、共感する力、感謝する力、聴く力、行動力、解決する力、考える力、夢想像力、伝える力など

鬼は、金棒を自在に使いこなす力ということもできる。

「金棒」= 保有能力
スキル、ノウハウ、知識(インプット)、経験(過去力)、IQ、情報、学歴、資格など

金棒は、道具であり、買うことだってできるものもある。

この2つの要素を軸にしてパターンを作ると、4つのタイプが存在する。

強い順番に並べるとしたら、下記のようになる。

①大鬼と大金棒

人間力が高く、保有能力も高い。誰がみても素敵な人であり、みんながついていきたくなる存在。リーダーとしては理想的。

②大鬼と小金棒

人間力は高いが、保有能力が低い。保有能力は低いものの、高い人間力があれば能力が高まるのは時間の問題。こんな人が20代の若手にいれば、ダイヤの原石。人間力が高いので、人に好かれるタイプであることは間違いなく、先輩達は放っておけずどんどん教えたくなる。そして素直で謙虚な姿勢が自己をさらに向上させる。

③小鬼と小金棒

人間力が低く、保有能力も低い。4タイプのうち一番弱そうに見えるが、そうではない。誰だって最初は、小鬼と小金棒。自分の身の丈に合った金棒を手にしているので、少なくとも小さい金棒は使いこなしている。この状態で伸ばそうと意識すべきものは、保有能力ではない、人間力。人間力は時間がかかるから、中鬼と中金棒を目指そう。

④小鬼と大金棒

人間力が低いが、保有能力が高い。これが一番厄介。身の丈に合ってない金棒を持っているので、持ち上がらない(使いこなせてない)。いわゆる頭でっかち人間。知識や過去の成功体験をひけらかすようであれば、周りに迷惑かけている可能性もある。

強ければ強い程、周りの人がついてきたくなると私は解釈している。

・会社の役職者やリーダーなら、仲間や後輩がついてくる
・営業マンであれば、お客様がついてくる
・家族がいるなら、家族がついてくる

普通は保有能力を伸ばしたがる人が多いような気がするがそれではいけない。
上記の内容から得られる結論は、
鬼と金棒の大きさは常に同じでなければならない、もしくは、鬼の身体の大きさの方が金棒よりも少し大きいくらいがいいということであろう。

これはとてもわかりやすくて、人間力に対する認識が深まった。

小鬼と大金棒を否定しているように聞こえるかもしれないが、そうではない。

私のキャリアは、公認会計士に合格したことが始まりであり、スタートは④小鬼と大金棒だった。
私は人間力がまだまだ足りない。(大きな金棒を手にしてから12年経ったが、中鬼サイズと評価していただけるならかなり嬉しい)
まだまだだからこそ、危機を感じ、人間力を高めようという人一倍の努力をしている

初めてその危機感を感じたのが21歳の時だった。
私は公認会計士に合格して監査法人に入社するだが、職場にいるのは大きな金棒を持った鬼達ばかり。
知識やスキルは一流
ただし、大鬼もいれば小鬼もいる。
大きな金棒を持った大鬼は圧倒的な尊敬と目標にしたい人が多かった。
逆に大きな金棒を持った小鬼はとにかくやばいと思った。
4タイプの中で一番上と一番下が職場にいるのだから、そのギャップに気付くのは必然である。 
そのやばさを若いときに気付けたので、私は人間力の大切さを知った。

今振り返ると気付けたことが良かった。


2.「人間力」の差はどのように生まれるのか?

そもそも「人間力」の差はどのように生まれるのか疑問に感じたので、
この問いに対する自分なりの仮説を立ててみた。

【問い】人間力の差はどのように生まれるのか?
【仮説】6つのハードルにより差が生まれる
<6つのハードル>
①人間力というものの存在を認知している人/認知していない人
②人間力の必要性を理解してる人/理解してない人
③人間力がまだまだ足りてないと自覚している人/自覚していない人
④人間力を理解している人/理解していない人
⑤人間力の不足を日常の行動から気付ける人/気付けない人
⑥人間力そのものを自分で学習できる人/できない人
①人間力というものの存在を認知している人/認知していない人

本を読まなかったり、周囲を観察をしなかったり、人間関係に苦労してこなかったりすると、スキルやノウハウよりもそれを扱う人間力(鬼の大きさ)について認知していない人が一定数いる。

②人間力の必要性を理解してる人/理解してない人

人間力が必要であることを理解しなければと高めようという気持ちになれない。
仕事を例に考えると、お客様は商品の良し悪しだけで買わない世の中。
特に対人サービスを伴う商品については「人間力」も商品の一部であると考えるべき
人間力が低いと言うことは商品全体の価値を大きく下げていることに等しい。

③人間力がまだまだ足りてないと自覚している人/自覚していない人

自分を客観的に観察し、足りてないことを自覚する。
この段階に到達すると、自分も人間力を高めようと努力を始めるはず。

④人間力を理解している人/理解していない人

高めるためには、人間力そのものの理解が必要。
この場合の理解とは、自分なりに解釈できる、人に説明できるレベル

⑤人間力の不足を日常の行動から気付ける人/気付けない人

日常の行動から気付ける人は、とてもレベルが高い
気付けない場合でも、人に教えてもらった時に自覚できる。
人に教える場合は、ここに落とし穴があることに注意したい。
それは、気付かせてあげるだけで、その人が自分で改善すると思い込んでしまうこと。
上記③に到達していない人に、気付きを与えても効果がなく、単純に注意された(怒られた)と思ってしまう。

その場合は、②に戻り、
(質問)どんな人間になりたいのか?
(質問)理想と現状とのギャップについて感じることは?
(質問)信頼関係はどんな行動の積み重ねで生まれる?
こういった質問を繰り返し、本人と一緒に考え、一つずつステップを上がっていく必要がある。

⑥人間力そのものを自分で学習できる人/できない人

気付いた(気付かされた)うえで、自分で学習し、行動を改めることができる人はさらにレベルが高い
どのように行動を改めるかわからずに思考が止まってしまう人もいる。
人に教える場合は、正しい行動の改め方も一緒に考えるか、誰かにアドバイスをもらう必要がある。


3.子育て教育で注目の「非認知能力」との関連性

人間力というテーマに触れているうちに、教育の分野で世界的に注目されている「非認知能力」と関連が深いことに気付いた。

「認知能力」は、知能検査で測定できる能力のことで、IQや学力、記憶力のようなもの。これは上述の「金棒」と同じ。
一方で、「非認知能力」というのは、数値化できない能力のことで、研究者によって定義は異なるようだが、具体例は下記のようなもの。

『非認知能力の具体例』
意欲、集中力、精神力
協調性、コミュニケーション力、思いやり、共感性
やり抜く力
自己肯定感、自分を信じる力
客観的思考力、判断力
主体性、実行力、行動力
リーダーシップ、統率力
創造力、探究心

経済協力開発機構(OECD)はこれを「社会情緒的スキル」を表現しており、他では「生きていくのに必要な力」とも言われているらしい。

これは「鬼(人間力)」とほぼ同じじゃないか

調べを進めていると、経済産業省がいう「社会人基礎力」ともほとんど同じ。

「社会人基礎力」とは、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年に提唱しました。

経済産業省:https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/
『社会人基礎力の12の能力要素』
前に踏み出す力
 → 主体性、働きかけ力、実行力
考え抜く力
 → 課題発見力、創造力、計画力
チームで働く力
 → 発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力

もう、全部、一緒。
どこもかしこも、誰も彼も、みんな「人間力が大事」と言っているではないか。


4.人間力を高めるには

人間力を高めるにはどうすればいいのだろうか。

金棒や認知能力という、目に見えるもの測定可能なものを高める方法については、明確に正解がある。

しかし、人間力(鬼の大きさ)や非認知能力という、目に見えないもの測定不可能なものを高める方法は、正解がないと思う方がいいのではないか。

そもそも、正解を求める考え方が良くない。
すぐに答えを知りたがる癖がある人が多いのではないだろうか。
すぐに答えを知りたがる癖がある人ほど、金棒や認知能力を高める癖があるのかもしれない。

単純な正解はない。
だからこそ、いろんな経験をして、いろんなことを試して学習して、工夫してみて、その人に合った答えを探しながら人間力を高めていく。

上述の<6つのハードル>を越えるために、

①人間力というものの存在を認知しよう
②人間力の必要性を理解しよう
③人間力がまだまだ足りてないと自覚しよう
④人間力を人に説明できるレベルまで理解しよう
⑤人間力の不足を日常の行動から気付こう
⑥人間力不足の気付きから自分で学習し行動を改めよう

この記事では、②まではいけるが、③以降は自分次第。

・どんな人間になりたいのか?を自分に問う
・理想と現状とのギャップを自分に問う
・振り返る習慣を作る
・年齢や異なる経験をしてきた人からの話を聞く
・人間力に関する本をたくさん読む
・周囲の人に助けられて生きていることに感謝する
・身近にいる人を助ける
・これから起こる全ての事象に対して、自分の人間力の不足が原因と自覚する

高める方法に単純な正解はないが、できることは数えきれないほどある。

それを全部やるだけ。

一番大事なのは、「家族や友達、働く仲間やお客さんのために、人間力を高めていく」という強い意志だと思う。

人間力に完成はない。
私も、大鬼を目指して、人間力を1mmずつ高めていきたい。

「身近にいる人を助ける」という利他に関しては以前の記事『商売とビジネスの意味〜利他の他は誰か〜』を参照ください。

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